超重量級の犯罪小説。宮部みゆき「模倣犯」感想

何となく宮部みゆきの有名な未読作品を読みたくなって手にとった。いやはや、おそろしく重厚な作品だった。物理的にもそうだし(文庫版は全5巻。電子書籍版なし)、内容の面でもクソ重い。

4101369240

テーマの1つとして「ある日突然犯罪によって破壊される日常」といったものがあり、演出として破壊される直前までの登場人物の生い立ちや日々の暮らしなどを丁寧に描写している。物理的な重厚さの理由には、この仔細な描写によるところも大いにある。

連続殺人事件を扱った小説である、という点ではミステリー小説のようであるが、犯人自体は早々に明らかにされる。3部構成の第2部以降は、犯罪者と周辺の登場人物たち、そして警察の動きを追いながら、非常に特殊な犯人と、被害者と、警察とあとジャーナリスト(?)との対決を描いていく。後半では、犯人に振り回されながら徐々に真実の欠片を掴んでいく描写が分厚い。

重厚なわりに、最後のカタルシスがうすい小説だ。それが悪いとも一概には言えないと思うものの、長い小説を読み終えた最後に、疲れ(と出費)に見合う何かこうパッとしたものが欲しかったなあ娯楽小説ならば、というのが読後の正直な感想で、まあある意味パッとしているといえばいるのかもしれないが、でもなあ、そういえば前に自分内で宮部みゆきブームが終了したときもこんな感覚だったなあ、と思い出した。

何というか、ちょっと味気ない感じがする。巧すぎて、旨みがちょっと足りない、みたいな。

スポンサードリンク

本作は1990年代後半に書かれた連載作品を2001年に書籍化している。それだけに、今となっては時代を感じずにはいられない部分もある。特に携帯電話やインターネットの描写のあたりなど。

ここからネタバレ。

本作の最重要人物はピースだが、彼自身のモノローグや心理描写はなく、ヒロミなど他者を通してしか描かれない。ヒロミが憧れ、家族やカズを見下すようになっていくきっかけとなったピースの家族についての話は、単に嘘であったことが終盤にわかる。

が、ピースが何を思ってその嘘を言っていたのかは、最後まで明確にされない。このあたりもカタルシスのなさの一因だと思う。みんなピースにここまで振り回されたのに、彼のすべては明らかにされないのだ。

ヒロミがなぜピースの嘘に魅せられたかといえば、ヒロミが家族を愛していなかったからである。ヒロミの両親がいかに愛されるに値しないかはヒロミの目を透してかなり詳細に描写される。実際、読者がヒロミの両親に好感を持る要素はゼロであろう。このあたり、どうも一面的というか、変に誘導的な気がしなくもない。ヒロミを通しての描写だからそれでいいのだ、という捉え方もあるのだが。

本書を読んでいて、特に気になった点が2点ある。1点目は、犯行の重要なキーである「携帯電話は逆探知されない」というピースたちの思い込みについて。

今どきは「スマホで何かやったら位置情報が残る」が常識で、この思い込みは、2016年の感覚ではもはや逆にSFめいている。話が進んで「えっそこ!?」と思わず心の中で突っ込んでしまった。1996年の携帯電話事情はちょっと詳しく思い出せないが、確か2つ折端末もまだメジャーでなく、iモードなどインターネット利用ができるサービスも登場していなかったはず。技術が急激に進歩する中でミステリーを描く難しさを感じる。

2点目は、「いい者」側の人物はそれぞれ家族の関係がそれなりにある一方、「悪者」側の人物は、日高千秋など被害者を含めて揃って機能不全家庭と言っていい状態であることに、ちょっと安易さを感じてしまった点。自分の家族のことしか考えていない樋口めぐみは、一周回った感じの特殊な存在か。

本作で事件が起きた1996年(ちょうど20年前)は「援助交際」が流行語大賞の候補だったそうで(ほかには「チョベリバ」「アムラー」「ルーズソックス」「(沖縄の)閉塞感」など)、なるほど当時の世相を反映した感じなのだろうか。

だとしたら、今の世相はどうなんだろうか? 当時はその前の1世代ほどに信じられていた「こうあるべき」ものがそうではなくなってしまった時代で、援助交際なんかはその象徴だったと思う。2016年の今はそもそも「こうあるべき」というイメージが自体がなく、何を基準に語ればいいのかもよくからない時代なんじゃないだろうか。だからどうだという話でもないんだけども。

本作を読み終えたあと、他者の感想を渇望して(それだけ重労働なわりに満たされなかったのだろうか)、2001年に単行本が出た作品ということで当時のWebサイトを探して読み漁った。「模倣犯」は映画が2002年に公開されていて、それ以降は映画を酷評するレビューだらけでひどいノイズとなる。

ブログの登場よりも前ということで、よくも悪くも懐かしいデザインのサイトばかり。総じて文章も短く、拙いものが多く、内容の誤解も多いと感じた。20年って長いなあ。

4101369259 4101369267 4101369275 4101369275