「他者に期待しない」って難しい

「心穏やかに暮らしたいなら他者に期待しないこと」「夫婦円満のためには相手に期待しないこと」てなことが、立派なカウンセラーや先生の言葉として、よく本に書かれている気がします。

何冊かそのような本を読み、言わんとしていることは理解できるようになったつもりなのですが、なんで「期待」という言葉を使うんだろう? と、いつも思います。

だって、何の前提もない状態でいきなり「私はあなたに期待していません」と言われたら、ああどうしようもなく見放されているのだな、と思うでしょう。ネットで「俺は他人に期待しないぜ」とつぶやけばきっと軽く炎上すると思いますが、前後の文脈がないと、単に無頼気取りの勘違いした奴に見えてしまいます。

スポンサードリンク

「期待」の意味するところが広すぎて難しい

「他者に期待しないこと」というのは、要するに、自分のために生きているわけではない他者に対し、自分の中で勝手に「してもらうこと」の期待値を上げてはいけませんよ、それで現実とのギャップに悲しんだり怒ったりするなんて意味がなく、そもそも相手の非じゃないし間抜けなうえに不幸ですよ、といった話の場合が多いようです。

しかし「期待」という言葉の捉え方は人それぞれで、深い意味はなくピュアな好意の表現として「よっ、期待してるよ!」なんて言っちゃうこともオッサンにはあるわけです。また、期待とは依存心から生まれるものだと考える人もいるようです。

だから言わんとするところが分かりにくいし、それでいてインパクトの強い言葉なので、ネットでは揉めやすい。1つの言葉から皆違うものをイメージして論争しているという、不毛な事態を招きやすい言葉となります。

もしかすると「他者に期待しない」という言葉を選ぶ方の認識では「期待」とはただ俗っぽい、卑しい言葉として扱われているのではないか? と思ったりもするのですが、次に述べるように「期待」とは、今の時代では一種の通貨でもあると言えるでしょう。

他人の言語感覚とのズレへの理解なく「他者に期待しない」という言葉を選ぶのは、他者の読解力に期待し過ぎているのではないか、という倒錯的状況に……というのはさすがに意地の悪すぎる見方でしょうか。

通貨としての「期待」

今の時代——メディアなり通貨経済なりがそれなりに発達して以降、と想定——において、期待とは一種の通貨だと考えていいんじゃないでしょうか。

私たちは誰かに期待され、期待に応えることで、お金やら評価やら好意やらをいただく。また自分が期待し、相手に期待どおり、または期待以上のパフォーマンスを出してもらうことで、納得や感動を得られる。期待から逸れたところに意外性がある。それらの前に期待がなかったら、感情の動きははるかに小さく、人生はつまらなく、お金の出入りは少なくなるかもしれません。高い期待に応えればギャラも評価も上がりやすいし、期待はずれとなれば何もない状態でコケたときよりもダメージは大きくなりがちです。

要するに、たぶん「他者への期待」というのはよしあしの両面があって、無償で付き合う相手に一方的に期待しちゃうのはよくないけど、何らかのルールに則ったやりとりの中で期待するのは大いにアリ、みたいな感じで、自分の中で使い分けるのがいいんでしょうね。

「減点法は使うな、加点法で見よ」と解釈

私は、「他者に期待しない」とは要するに「減点法は使うな、加点法で相手を見よ」ということだと解釈しています。

と、言うのは簡単ですが、実践は難しいところもあるかもしれません。

具体的なシチュエーションを挙げるどうも嫌な感じになりますが【重要な前置き】、例えば、夜遅く帰ったときに奥さんが温かいゴハンを用意して風呂も沸かした上に玄関先で待ってくれている……と期待して玄関を開けたら冷や飯と冷めた風呂しかない上に先に寝てた、という状況だとガッカリ(期待あり、減点法)です。

でも、何かしら食い物があるし、風呂もとりあえず入れる! と考えれば(期待せず。加点法)、問題ありません。

では、そこまで何も期待せずに生きるのが正しいのか? 本当に心穏やかなのか? というと、そういう話ではない気がしますね。期待するのはいいけれど、それはあくまでもベストエフォートなものであって、品質保証されたものではないと認識しておく、みたいな?

友情や愛情は保証のないベストエフォート型であり、仕事や忠誠は品質保証があるギャランティ型である(ときに試される)、みたいな考え方は、社会的ネットワーク論としておもしろいかもしれません。

先日「他者に期待しない」というキーワードがTwitterなどでちょっと飛び交っていたのを見たので、思うところを書いてみました。

しかし、確かに「他者に期待しないこと」的教訓が書かれた本を何冊も読んで、どうも身も蓋もない言い方だなーと思った記憶はあるのですが、なんという本だったか、まるで思い出せません。