川端康成の存命中に出た「川端康成集」が、実によいものでした

ブックオフって、たまに凄いものが100円で売ってますよね。先日100円で買ったのが、こちらです。学研の「現代日本の文学16 川端康成集」。箱入りでハードカバーで、存分にお金がかけられた作りです。

学研「現代日本の文学16 川端康成集」

旧ブログでも何度となく言及していましたが、川端康成は私の大好物です。

この本で注目したいのは、初版発行が昭和44年(1969年)であること。川端康成は昭和47年、私が生まれる数カ月前に亡くなっていて(自殺とされる)、そして、昭和43年には、日本人初となるノーベル文学賞を受賞しています。そういうタイミングで出た本です。

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本を開くと、監修委員の中に川端康成の名前が。自分の作品集の監修を自分でやったということは、この青焼きに目を通したりもしたんでしょうか。そんな様子を想像するだけで、ちょっと興奮しますね。

昭和44年の「聖地巡礼」

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巻頭には「川端康成文学紀行」というカラーページがあり、「雪国」の国境のトンネル(清水トンネル)、「古都」で描写される北山杉、「伊豆の踊子」の舞台である湯ヶ野の温泉宿などの、昭和40年代の、さらには私が生まれる前のものであろう写真が載せられています。

作品が書かれた当時のままではないかもしれませんが、当時の様子を色濃く伝える写真で、昭和の風景と昭和の写真の発色に、懐かしい気分になります。

さらに、その次には、吉行淳之介による「『伊豆の踊子』の旅とその周辺」というフォトレポートがあります。天城峠や伊豆の温泉地などを歩きながら、写真を載せながら作品の背景を語るという、これは今風に言えば「聖地巡礼」そのまんまですよね。面白いなあ。

収録されている作品は以下。

  • 美しさと哀しみと
  • 雪国
  • 花のワルツ
  • 温泉宿
  • 伊豆の踊子
  • 抒情歌
  • 十六歳の日記
  • 招魂祭一景
  • 掌の小説(抄)

結末を前にした川端康成年譜

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巻末には年譜と、奥野健男による「評伝的解説」があります。年譜は昭和43年のノーベル文学賞受賞と、受賞記念講演「美しい日本の私」、そして翌年の昭和44年の、いくつかの精力的と言っていいだろう活動が記されて終わっています。

「評伝的解説」はノーベル文学賞受賞から始まり、生い立ちから川端作品のルーツを辿り、最後は「美しい日本の私」に絡めて締めくくられています。少し引用します。

「眠れる美女」の薬で新だように眠っている少女たちを愛撫する老人、川端文学の目は少女を禽獣からついに陶器に変え、そして無限の幻想の中に遊ぶ。老年の秘境の中の耽美である。「片腕」の、女の片腕を預かり、ひそかに愛撫し語りあう超現実的な作品は犀星の「密のあはれ」の金魚の少女と相対する。この世にあり得ぬことを、言語表現のイメージの喚起する魔力により実現させる、もっとも前衛的な実験小説であり、世界の現代文学の最先端を行く文学である。
(「川端康成集」P.463〜464より)

3年後に氏が亡くなったとしても、その後アップデートされるべき内容は特にないかもしれませんが、没後に書かれた評伝(それほど読んでいませんが)とは違って「現在進行形」で書かれているような印象があり、惹かれました。

「豊かさ」とは何か?

ところで、この本がなぜブックオフに置かれるようなったのか分かりませんが、そういえば昔は特に気に入った作品はハードカバーで買っていたけど、今そんなのは困難よね、と思い至り、少々寂しい気分になりました。

この重み、厚み、紙の臭いを感じながら、活字で小説を読むというのは、電子書籍にはない豊かなディテールを持った体験だなあと、改めて感じます。

こういう本を好きなだけ置いといて、家が狭いからーとか今月は金ないからーとか気にしないで済む「豊かさ」って大事だなと思ったりもしました。

▼関連記事:
伊豆のツンデレ踊り子

Amazonを検索しても同じ本は見つけられませんでしたが、昭和41年(1966年)発行の集英社の川端康成集が。

昭和44年(1969年)発行の川端康成写真集というのも気になります。何が写ってるんだろう……。