ネットで「クチコミ」の意味は拡張され、強い影響力を持つものになった
以前の記事「『クチコミ』が無条件にいいものだった時代は終わった」において、次のようなことを書きました。
- 「クチコミ」という言葉には「利害関係に囚われることがなく、信頼性が高い情報である」という良いイメージがある
- そのため「食べログ」や「@cosme」のようなユーザーによるレビューを主体としたサイトで「クチコミ」という言葉が選択的に使われてきたのだろう
- しかし、食べログやらせ問題など「クチコミ」のイメージを損ねる大きめの事件が発覚
- 「クチコミ」に関して何かを見直すべきタイミングではなかろうか
という話を踏まえて、一部話を戻しつつ、「クチコミ」について改めて考えてみたいと思います。
「クチコミ」の意味は変容し、拡張されてきた
「口コミ」という言葉は大宅壮一が50年前に作ったそうだ、と先の記事に書きました。これについて詳しい情報はないかとWebで検索してみたところ、次のような記事をみつけました。
もともとは、ラジオとテレビをクチコミュニケーション、
略してクチコミといい、
新聞と雑誌を手コミュニケーション、
略して手コミといったのが始まりだった。
クチコミという言葉は人々の口を介して広まるうちにもとの意味を離れ、
大宅が意図していなかった意味が、まさにクチコミによって生まれた。
三島邦彦 11年11月20日放送 « Vision
(※J-Waveの番組「VISION」の作家陣によるブログらしいです。参照:J-WAVE 81.3 FM : VISION)
いつごろ、どのように意味が変容していったのかという資料をみつけることはできませんでしたが、当初の意味は、こんにちの「クチコミ」とは全然違ったようです。
こんにちでは「マスコミ発ではなく個人(または、わりと小さな組織)発の情報」、「対象との利害関係がない人物による評価」といった意味合いだと定義してよいかと思います。
しかも定性的なエピソード、文章や談話に限らず、数値としての評価も「クチコミランキング」や「みんなの採点」みたいな形で「クチコミ」の範疇に入れられつつあり、こうした面でも、だいぶ意味が拡張されていると言えるのではないでしょうか。
社会心理学の観点から考える「クチコミ」の威力
映画のCMでは、映画館でただいま観てきましたという体の人たちが口々に感想を述べる、というのが定番化しています。試写会を観た人の実際の言葉なのか、それともエキストラが台本通りに行っているだけなのかわかりませんが、いわば「(作られた?)クチコミ」の一種だと言えます。
あれがなんだかんだで使われ続けているのは、やはり(代理店の手抜きでないとすれば)効果があると実証されているからなのでしょう。
「影響力の武器」に「社会的証明」という、私たちの本能に根ざしたシステムが紹介されます。テレビのバラエティ番組でよく使われる笑い声——「誘い笑い」とか「録音笑い」と呼ばれるものが例に挙げられます。
録音笑いを使用すると、笑いの回数が多くなり時間も長くなること、また、そのネタを面白かったと評定することがいくつかの実験で明らかにされています。
(「影響力の武器」第1版 p.137より)
社会的証明の原理については、私たちに「他者がどうしているかによって自分の行動が適切なものかどうかを判断する」という性質があると解説がされます。
たいていの場合、多くの人が行っているのであれば、それは正しい行動なのです。こうした社会的証明の原理の特徴は、この原理の強さであると同時に弱点でもあります。他の影響力の武器と同様、これは行動の仕方を決める簡便な方略ではありますが、同時に、この方法を悪用して利益を得ようとする人の餌食になってしまうのです。
(「影響力の武器」第1版 p.138より)
つまり、私たちは「他の人はこうやっている」という情報をインプットされ続けることによって、本能的にそれを模倣してしまうようなのです。
先の記事の反応として「クチコミなんか昔から当てにならなかった」「クチコミなど信用しない」といった意見も多数ありましたが、もしかすると、そういう人たちも無意識のうちに、(広義での)「クチコミ」に影響されていることがあるかもしれません。
ところで「クチコミで大人気」的なコピーを付けた商品をときおり目にしますが、これって「隠れ家的レストラン」が駅前にでっかい看板を出しているのと似たようなもので、たいがいな自己矛盾と感じられますね。
もう「クチコミ」のないWebはあり得ない
こうして考えてみると、なかなか「クチコミ」とは恐ろしいものです。私は先に「『クチコミ』という言葉にいいイメージがあるから」使われていると書きましたが、こうした影響力の武器としての特性を理解した上で使われているのだとしたら、ますます恐ろしい、と思えてきました。
しかし私自身、改めて考えてみて「クチコミ」のないグルメサイトやECサイトを使う気には、あまりなれません。それはなぜか? とさらに考えてみると、「クチコミ」があるサイトに比べると、ないサイトはどうも相対的に寂れた感じがしてしまうからだと気付きました(強いブランド力を持つサイトは除く)。
現在の定義でいうところの「クチコミ」は、言ってみればネット≒CGM/ソーシャルメディアの根幹をなすものであり、他のメディアとは異なるネットの本質であると言ってもいいでしょう。「クチコミなど当てにならん」という意見もまた「クチコミ」だと言えてしまいます。「クチコミ」をどう捉え、付き合っていくか、もうちょっと考えてみるのがよさそうです。
さて、以上から、
- クチコミメディアの運営者は「クチコミ」をどう運用したらいいのか
- ショップ、飲食店の中の人は「クチコミ」といかに付き合うべきか
- 一般ユーザーは「クチコミ」といかに付き合うべきか
といった論点が出てくるのですが、ここまでで既に話が長くなっているので、あらためて考えてみたいと思います。
余談。先日、居酒屋に行ったら、近くの席の人が「食べログのやらせがあって困るよ。もう信用できなくなる。しっかりやってくれよ」とボヤいているのが聞こえました。
極めて普通の反応だと思います。この人はこの居酒屋の常連のようで、なじみの店に行くなら食べログとか関係ないだろう……と一瞬思ったのですが、ときには新規開拓も楽しみたいですよね、やはり。
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- 2012.01.10
- [コミュニケーションの話(ソーシャルメディア、社会の話)]
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