「眠れる美女」と「シマシマ」に見る、添い寝の幸福論
川端康成の怪作に「眠れる美女」という小説があります。主人公の江口という老人が、足繁く怪しい宿を訪れる、そこには睡眠薬で眠らされた女性(少女)がいて、老人はその女性に添い寝して一夜を過ごす、そして……というもの。
巷の評では「見事なエロティシズム」、「デカダンスの極み」といった声の多い作品です。個人的には、それらもさることながら、男の無力さ、次の世代を生み育てられるわけでない男の人生のよりどころのなさを感じてしまいます。翻って、女という存在の力強さ、確かさも。
そんな「眠れる美女」の男女を反転させたような設定のマンガが存在するということを、舘野泰一さん(@tatthiy)のツイートで知りました。
驚いたのは、添い寝する側、される側の性別が反転した設定の作品が存在するということ。つまり「寝るときに誰かに(異性に?)傍らにいてほしい」という感情は老人だけだったり男だけだったりのものではなくて、女性にもあるものと考えてもいいようです。どんな内容だろう? と興味が湧き、とりあえず1巻を読みました。
男4 女1 私達の仕事……添い寝屋。
山崎さやか改め、山崎紗也夏の新作!今度は女性の本音と、理想の男を突き詰める。
アロマエステ「グリーン」のオーナー・箒木汐(ほうきぎしお)。彼女にはもう1つの顔がある。それは、眠れない女性達に【添い寝】相手の男を派遣する<添い寝屋>「ストライプ・シープ」の店長。女の人は、ただ男の人にそばにいてほしい夜だってあるから――。
シマシマ(1) (モーニングKC)
「眠れる美女」は老人に若い女性が添い寝、「シマシマ」は働き盛りの世代の女性(を中心)に若い男性が添い寝、ということで、両者では客の性別だけでなく年代の設定も対比的です。
これは、若い男が客では何も起こらない方がおかしく、また年老いた女性では母子やおばあちゃんと孫的な展開しか見えないからかな、てなことから必然的な導き出された設定かなあ、と想像します。もっとも、そうだとすると、少子化が進む今後においては、自分は子どもを産まなかったけれど子ども世代にあたる若い命を抱いて眠りにつきたい、というような欲望も生まれるのかも? とも。
添い寝相手を求める気持ちの普遍性
設定についてはそれくらいで……、やすらかな眠りを求める気持ちと、「添い寝」という行為がもたらすものには、どうも男女の間で何らかの共通性があるようだ、というのが、まず面白いなと思いました。
もっとも「眠れる美女」の江口老人は、単に「やすらかな眠り」を求めていただけとは思えませんが、また一方で「ストライプ・シープ」の顧客である女性たちも、ただ単純に安らかに眠れる道具として男を利用しているというわけではなく、大小の感情の波が起きています。
さておき、眠りと心理について深いことは知りませんが、一時的な死にも見立てられる眠りに入るに当たって、何かしら安心を与えてくれる他者を求めるというのは、わりと普遍的な感情なのかもしれません。
添い寝の効用について、赤ちゃんとの間では「赤ちゃんとの添い寝 - gooベビー」に書いてあるように、親子のお互いが安心できる、生活リズムをシンクロできる、といった指摘が見つかります。こういうことは生物として、また言語化されない感情のレベルでのコミュニケーションとして、非常に重要なものです。
親子や恋人どうしでなくても、好ましい異性と添い寝をして、こうした効果を(擬似的なものにせよ)得たい、と本能的に欲するのは、ごく自然な欲求だと考えらていいのかもしれません。
独り寝に慣れてるときは特になんとも思いませんでしたが、最近はいつも家族で寝ているので、あるとき急にひとりで寝ることになると、それがちょっとした昼寝であっても、寂しさとか不安とかが混ざったような妙な感覚になります。
余談ですが、山崎紗也夏さんは「マイナス」を描かれてた方なんですね。
この作品は非常に印象深くて、病院だか床屋だかでふと手に取った雑誌に載っていたのがたまたま人肉食べてる回で(参考:マイナス (漫画) - Wikipedia)、何事が起きてるのか理解できませんでした……。どういう人間観の作家さんなのか興味が増しました。
余談2。「眠れる美女」がドイツで映画になっていたことを知りました。というか、前に情報を見てそのまま忘れていたことを思い出しました。
日本でも2回映画になっているようですが、DVD化はされていないようです。
* 解説・あらすじ 眠れる美女(1968) - goo 映画
* 眠れる美女(1995) - goo 映画
さらに余談2.5。「シマシマ」は深夜ドラマ化されています。
* Friday Break 『シマシマ』 | TBSテレビ
- 2011.08.30
- [コミュニケーションの話(ソーシャルメディア、社会の話) | その他]
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