電子書籍をめぐる議論の私的整理
電子書籍の話題には手頃な取っ掛かりが掴めず傍観を続けていましたが、少し時間ができたので、現状で気になっている論点を3つに整理してみたいと思います。
(1)電子「書籍」たりえるための編集物としての強度はいかほど?
何をもって「電子書籍」の定義とするのか? と考えるとき、ブログ記事など流動性の高いWebコンテンツよりも強力に(高度に念入りに、俯瞰的に、より広い読者層を想定して)編集されている、ということが「書籍」としての定義となるかと思います。
どのような形態であっても、多様な読者がある程度共通した理解を得ることが可能で、また、多くの読者がある程度の長い期間参照し、学習したり議論したりするのに耐えうる強度を持つ編集物であること、を定義としていいのではないかと。そこにこそ、Webページではなくわざわざ書籍を買って読む価値があるのだと考えます。
そうだとして、どの程度まで編集されたものが「電子書籍」として受け入れられるものでしょうか? 現状の書籍編集の手のかけ方(会社により書籍の内容により千差万別ではありますが)は、もしかしたらコスト的に過剰なのかもしれません。「書籍のβ版」みたいな概念が広く受け入れられるイメージはあまり湧きませんが、現状の初校、再校程度にまとめたものを少数の読者に公開し、その意見を取り入れて完成させる、といった作り方はそのうち出てくるのではないかと思います。
(2)電子書籍は誰が買うのか?
最初の主要な読者はどこにいるか? 「キャズム」の見立てで言えば、キャズムを超えるための電子書籍普及の橋頭堡となるのはどこか? という話。子ども向けの絵本、文学作品、マンガ、実用書、などコンテンツによって、適切な電子書籍ソフトウェアや読書用デバイスの形態は違うのではないかと思います。
そうした中で、アメリカではコアないわゆる「読書家」「愛書家」層をKindleががっちり掴んでいるという指摘は、納得感があります。Amazonは(紙の)書籍販売で、他のオンラインショップに先駆けてコアな読書家層を掴んだ、Kindleにおいてもそれに成功したという話。
Kindle は愛書家のためのガジェットだが iPadは違う:年に2冊しか読まない連中は iPadだろうが、それはKindleのマーケットではない。愛書家は集中できる環境を必要とし、読書中にメールやTwitter、ニュースなどがちらつくのを嫌う。
Kindle vs. iPad (2):交錯するプラットフォーム : EBook2.0 Forum
日本では、Kindleの日本語対応(最新版でようやく正式に対応)も日本語のコンテンツの充実もまだまだで、こうなってはいません。日本のコアな「読書家」像をよく知りませんが、もしかしたらITリテラシーがそれなりにあり、かつ読書家という人は少ないのではないか、という気がしています。
そうすると技術書だったり、マンガだったりが橋頭堡となるのかもしれません。規模の大きさでは明らかにマンガだろうと思われ、名作の単行本化の次は電子書籍化というのは、普通に考えられそうです。
(3)「ソーシャル」要素はどのように位置づけられるのか?
Kindleにあるというマーカーの共有機能のようなもの。将来的には、感想やレビューの共有、同じ本の読者同士のコミュニケーションなど、ソーシャル要素は「電子書籍」の大きなアドバンテージになり得ると語られます。必須の要素ではないかもしれませんが、差別化要素として重要なものにはなりそうです。
こうした機能は、不特定多数よりも自分の好きな人、センスの合う人との共有が楽しいはずで、ソーシャルグラフを持つサービス(FacebookとかTwitterとか日本ならmixiとか)との大規模連携もあるかもしれません。しかしKindleはすでにさりげなく連携していたりするので、企業提携レベルの話にはならないのかもしれません。
新版では、ソーシャル ネットワークの人気の高まりを受けて、『Facebook』および『Twitter』に直接書き込める機能を実装し、自分が読んでいる電子書籍からこれはと思うページを共有できるようになった。
Amazon.com の『Kindle』が『Facebook』や『Twitter』と連携 - japan.internet.com 携帯・ワイヤレス
全国の中学校にこういうのが導入されて、辞書の微妙にエロい単語が日本中の男子中学生によってマーカーされていることが知れたりするとちょっと愉快ですね。もっとも、それはもう「密かな楽しみ」というレベルでなくなり、廃れそうな気もしますが。
何か忘れているような気もするので、思い出したら追記します。
- 2010.08.10
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