和やかに、真剣に。「ダイアローグ 対話する組織」中原淳/長岡健
「対話(ダイアローグ)」というキーワードから、組織内での情報共有や企業の人材教育のあり方を探る、という内容です。NAKAHARA-LAB.NET 東京大学 中原淳研究室での紹介を見て購入。
標語だけでは伝わらないもの
標語を書いて壁に貼ったり、朝礼で唱和したり、といった旧式の意識伝達方法を本書では「導管メタファー」と呼び、情報の効率的な伝達だけを重視したこの方法では、期待通りのコミュニケーションが成立しにくいとします。また、資料を駆使した「論理的に正しい」だけの資料や、メールだけのコミュニケーションに戸惑う上司(中高年サラリーマン)の姿も紹介されます。
こうしたコミュニケーションでは伝わらないものがあると、本書は指摘します。いわく「情報」は確かに伝わるけども、相手が共感・納得し、相手の行動に反映されるまでの深さで伝えることはできない。しかし、その深さまで行ってこそ本当の意味で「伝わった」と言えるのではないかと。
「意味」はコミュニケーションの中で作られる
そして、こうした問題への処方箋として、「対話」を推奨しています。全4章中の1章をまるまる使って「対話」という言葉の定義づけがされるのですが、そこでは最初に「社会構成主義」という言葉が紹介されます。
「社会構成主義」とは、何かの物事の意味は(組織内)のコミュニケーションの中で作り出される、ということだそうです。本書から引用します。
社会構成主義の根幹にある考え方は、「物事の意味とは客観的事実ではなく、社会的な構成物である」という主張です。ここでいう「社会的な構成物」というのは、「人々の社会的コミュニケーションによってつくられたもの」という意味にとらえてください。
これを踏まえて考えると、先ほどの社会構成主義の主張(「物事の意味とは客観的事実ではなく、社会構成物である」)は、ふだん私たちが客観的に存在していると思っている「物事の意味」が、実は人々の社会的なやりとりの結果としてつくり出されてきたものであり、絶対的に揺るぎない「物事の意味」など存在しない、という意味になります。
これはサラリと述べましたが、学問の世界の住人にとっては非常にラディカルな主張です。
しばしば組織内で絶対視されることがある「意味」も、実はコミュニケーションの中で作り出されたオルタナティブなものに過ぎない、ということだと思います。経営者は自社を取り巻く諸々の事態から何らかの意味付けをし、それに基づいて標語を作るけども、労働者にはその意味付けの過程は共有されず、標語も空疎なものであると。
つまり対話とは、事実をもとに「意味付け」をする行為であると考えるわけです。例として、ボトル半分のワインを「まだ半分ある」と意味付けるか、「もう半分しかない」と意味付けるか、という話が紹介されています。
自由なムードの中で、真剣な話し合いをするのが「対話」
そして「対話」とはいかなる行為であるか、という話に戻ります。類似した行為と比べて「対話」とはどう位置づけられるのか、おおざっぱに言って以下のような説明がされています。自由なムードの中で、真剣な話し合いをするのが「対話」だということです。これが対話の定義のすべてというわけではありませんが。
| 自由なムード | 緊迫したムード | |
|---|---|---|
| たわむれのおしゃべり | 雑談 | - |
| 真剣な話し合い | 対話 | 議論 |
私の理解では、対話とは互いの立ち位置の違いを尊重しつつ(これを多数決でどっちかに統一しようとするのが「議論」)正確に把握し、理解のための視点の補正値を求める行為です。
例えば「導管メタファー」であるところの標語を貼っちゃった社長が、どんな背景を踏まえいかなる考えからその標語を生み出したのか、を正確に知ることで、その標語の評価がきちんとできるであろうと。若手社員が何でもメールで送ってくる理由が「会話したくないから」なのか「話しかけるよりもメールの方が対応しやすいと思ったから」を把握することで、じゃあどうすりゃいいのかも見えてくるだろうと。
本書はその後、対話が組織にどのような効果をもたらしうるか、そして個人の「学び」と対話、といった内容に展開していきます。「対話」とか「学習」または組織内のコミュニケーションと知識・意識の共有といったものについて、考えを整理するのに大いに役立ちました。
人は物事をストーリーで理解する
本書で特に気になったのが「人は物事をストーリーで理解する」というくだり。人間の 認知・思考形式には物事の正しさを追求する「論理・実証モード」と、現実感や納得感を追求する「ストーリーモード」という2つのモードがあり、両者は補完的な関係であるという話なのですが、これは、いわゆるひとつのCGM・UGCがなぜ影響力を持つのか、という話にも繋がるでしょう。
人の頭の中には無数の物語テンプレートがあり、テンプレートにあてはめて理解しやすいものごとは、頭に入りやすいのだとか。結局のところ単純な物語がウケるんだよね、みたいな話はここに重なるのかもしれません。
だけど、現代においてはこうした「ストーリー」による訴求法は多用され、また、一方的にストーリーを語ること(モノローグ)は結局「導管メタファー」的なものに過ぎない。その先にあるのが「対話(ダイアローグ)」......という流れになるのですが。
今後買う予定の関連書籍:
人間の認知・思考形式には「論理・実証モード」、「ストーリーモード」の2つがあるとするジェロム・ブルナーの著書のひとつ。
「社会構成主義」の端緒として紹介されている「日常社会の構成―アイデンティティと社会の弁証法」(ピーター・バーガー/トーマス ルックマン)の改訂版。
- 2009.05.15
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ダイアローグ 対話する組織 (単行本)
ストーリーの心理学―法・文学・生をむすぶ (単行本)
現実の社会的構成―知識社会学論考 (単行本)
