速水健朗「自分探しが止まらない」とあわせて読みたい3冊
「『自分探し』問題」という新ジャンルを切り開いた名著、と評価されるようになってほしい。名著。
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「自分探し」や格差社会、個性重視教育の裏側、等々の問題を次々と提示し、一定の方向性にストーリーを導いていく情報量の濃さと構成にはとにかく驚かされた。が、最後の出口のあたりがイマイチはっきりと見えてこなかったような、モヤモヤとした読後感がある。
だけど、この読後感についてはまだ整理できていない。感想も含めてまた後日まとめたいと思っていますが、そのモヤモヤを解消するヒントとしても考えられるかもしれない3冊と合わせてちょっと考察してみたいと思います。
河合隼雄「大人になることのむずかしさ―青年期の問題」
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本書の内容を簡単に紹介(することはあまりに僭越かつ本書の趣旨に反する感じでもあり、あまり気が進まないのだがウダウダ言ってもしょうがないので)すると、「現代社会はどんどん複雑化しており、それに伴って『大人になる』ということも複雑な手順が必要で困難なものとなっている。青年も大変だが親も大変である。安易なハウツーで大人になれると思ってはいけない。むずかしさを認識し、徹底的に対決しなければ」というもの。
「自分探しが止まらない」でも、安易なハウツーで済ませようとする者が「自分探しホイホイ」に填ってしまいやすい、という指摘がなされる。日本人はオウム事件で「簡単に何でも断言する奴は危険」ということを学んだのではなかったのか? と思うのだが、やっぱり「むずかしいですよ」、「わかりませんよ」という結論では不満なのだろう。何でも適当に断言して安易なハウツーを提示する奴がウケ続けている。
また河合先生の論を採れば、日本の教育政策がどうなっていようが、社会の複雑化という状態がそもそも若者を「自分探し」に走らせがちである、ということにもなりそうだ。
この先は考察しきれていない。「自分探しが止まらない」を読んでのモヤモヤとした読後感は、この「安易に結論を出せない」ことへのモヤモヤだとすれば、それはとてもモヤモヤなりにスッキリとするのだが。
過去の紹介記事:
「河合隼雄「大人になることのむずかしさ―青年期の問題」」
ロバート・B・チャルディーニ「影響力の武器」
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社会生活を営む中で、私たちは能動的に行動しているつもりで、実は他者に操られ「行動させられている」ことが往々にしてある、ということを指摘する本。
能動的に「自分探し」をしているつもりで、実は「自分探し」をするように仕向けられているぞ、という「自分探しが止まらない」に通じる。
中田英寿を利用した「自分探し」ビジネスの構造なんかは、本書で指摘されている「好意(好きな人に勧められると、それがとても良いものに思えて買いたくなる)」を利用したものである。そして、自己啓発セミナーなんかは同じく本書が指摘する「社会的証明」、「一貫性」、「権威」、「知覚のコントラスト」などと巧みに利用したものであろうと想像する。
アレな行動を始めた友人を諫める本として「影響力の武器」はちょっと厚すぎるので、とりあえず1、2時間もあれば読める「自分探しが止まらない」を薦められるようになった、というのは喜ばしいことと思った。
過去の紹介記事:
「好きなブロガーがおすすめしている物は買いたくなる心理」を説明する「影響力の武器」
伊集院光「のはなし」
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まるで考察できていないのだが、私の大好物であるところの伊集院光は「自分探し」的臭いを徹底的に拒否する人であり、生き方として「自分探し」(カッコつきの)をしていない。落語家に弟子入りして高校を辞めて、といったあたり、いわゆる自分探し的な迷走は経験しているのだと思うが。
だから伊集院のような特殊なデブ(敬称)が若者ロールモデルになる、とか考えているわけでは全くないが、人間は社会的な動物であって、「自分」というのは、時に他者から要請されたり、押しつけられたり、与えられたり、見いだされたりしながら形成していくもんじゃないかなあと思う。とか書いてたら切込隊長が入籍とか。
過去の紹介記事:
伊集院光「のはなし」
余談
ところで、本書の中でひとつ違和感を持ったところがあって、それは「ドラゴン桜」と「のだめカンタービレ」を「あらかじめ秘められていた才能が見いだされ、開花していく話」と、「努力なしに才能がなんかのきっかけでフワッと開花した話」のように読める紹介をしている点。
両作とも、私は「地道な積み重ねなしには何人たりとも成功し得ないし、毎日の努力の積み重ねこそが人を成功に導く」、そして「努力はただがむしゃらにやるのでなく、質こそが重要」という思想がベースにあると考えている。
劣等生に徹底した受験対策教育を施す「ドラゴン桜」はその典型だと読めるし、「のだめ」もまた、才能を眠らせたままの主人公「のだめ」は、ふとしたきっかけからモチベーションを得て、スパルタ教師の家での合宿特訓や留学先での勉強を経て力を伸ばす。そして、変な色気からの練習では結果が出ず、表現するって何? というような課題を常に突きつけられ続けている。もう一方の主人公「千秋」も、幼少期からとてつもない量の修練を積んできていることが作中で語られる。質の問題で悩むのは千秋も同様だ。そして一方では、才能や努力が(相対的に)足りないキャラクターたちが音楽の道から外れていく様も描かれる。
もっとも「のだめ」が扱う音楽というジャンルの場合、いくら努力しても才能がなければダメという面もあるだろうが、私としては、この2作や野球マンガの「おおきく振りかぶって」などは、かつての「根性」と「非理論的ながむしゃらな努力」を賛美する昔のその手のマンガよりもよほど優れていて、成功した主人公が成功を掴むだけの裏付けとなる部分も描いており、子どもが参考にするに足りる内容だと思う。とはいえ漫画的表現の限界として「毎日地味に努力していますよ」という部分を延々と描いてもつまんないということがあり、なかなかこういう部分は読み取りにくいかなあとも思うのだけども。
このあたりの漫画は、東大、音楽、野球ととりあえず「やりたいこと」が定まってる(東大って定まってんのかよ? というのはアレだが)。将来に悩む若者たちの群像劇→職業マンガみたいなトレンドがあるとすれば、「自分探し」に悩む時代の次をなにか示しているのかもしれない、とも思う。
- 2008.02.22
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