「好きを貫け」という観念論だけじゃ勝てません
小野さんのこの話というのは、言ってみりゃモモカンの教えなのである。
梅田望夫氏が言うように、好きなことを貫いて仕事にしていくためにはどのようにすればよいのか(小野和俊のブログ)
上記エントリーに感銘を受けた方は、こちらも読んでみることをおすすめします。何箇所か引用します。
「よく言われるであろう球児たちの友情だとか、キャラクター造形の細かさなんかについては、個人的にはそれほど感銘を受けませんでした*1。
ではどこが面白かったかというと、作品の底に流れる"成長選択"とでも言うべき概念です。」
(中略)
「結論から言うと、西浦高校のトレーニングと試合戦術がこのスキルシステムにかなり近いこと、また、そのスキル選択が非常な説得力を持って描かれていることが『おおきく振りかぶって』の特異な点であると捉えました。」
(中略)
成長選択がなぜ素晴らしいかと言うと、それは汎用的かつ自発的なメタスキルだからです。
(中略)
勝つためには何が必要で、自分には何が足りないのかを見極める技術が成長選択です。全ては自分の弱さを認めたときに始まります。『おお振り』の『今の練習時間のままだと、やりたいことやりきる前に夏大会が始まっちゃうのよ』というモモカンの台詞を思い出していただきたい。もしくは『チームを作ると二人くらいはいい子が入ってくる、だから二人では勝てない』という台詞。
この「成長選択」にあたる一般的な用語を私も知らないのだけども、要するに、
- 人は全方向に伸びることなどできない
- だから、伸びる方向を選択する必要がある(好きを貫くべきだ。交換不可能な能力に磨きをかけろ)
- 伸びる方向を選択するということは、伸ばさない方向を選択するということと表裏一体である(好きなことを貫いている人の多くは、これらの「してはいけない」ことをよく破ります)
というあたりで、西浦高校の監督であるモモカンのチーム運営と、小野さんの仰ることは、おおむね重なる。
で、そう考えると、小野さんの仰ることは、議論のきっかけとしては良いと思うのだけども、アドバイスとして読むには具体性に乏しいし、だいぶ「できる人向け」な感じがする。
野球が好きで集まった生徒たちに、モモカンは「好きを貫く」ための技術を、具体的なハウツーとして教える。野球はチームでやるスポーツだから、個人のサバイバル論とは完全に重ならない部分もあるのだが、だいたい、こんな感じだ。
- まず自分を知る。まず阿部にキャッチャーの役割を、三橋に対して取るべき行動を叩き込む。チーム全員の能力、得意不得意を把握する
- 基礎的なスキルを上げる。三橋に体幹を鍛えさせ、急速アップを指示するなど。「交換可能な能力」が高いに越したことはないわけだ。睡眠時間を削る朝夜の練習など、ギリギリの選択もさせる。要するにプライオリティを考え、犠牲にできる部分は惜しまず犠牲にする、ということか
- 同時に「してはいけないこと」をしないための対策をさせる。赤点を取らないための勉強、三塁ランナーを見てリラックスする方法の習得、など
- 小さな目標を設定し、着実にクリアすることで少しずつ自信をつけていく。まず第一話で、三橋と阿部に花井を打ち取らせる。次に、三星と練習試合を行なう。その後も、それほど強くないチームと練習試合を重ねていく
- 自分の力を把握し、それを活かしていく方法を身につけていく。三橋のコントロールや特殊な球、田島の打撃技術や視力など。他のチームメイトも、自分の長所を活かし、短所を補う戦い方を覚えていく
「好きを貫く」というのはカッコいい生き方だと思うが、その言葉自体は具体性の何もない、単なるキャッチフレーズに過ぎない。これに感動してる場合じゃない。「好き」って何なの? 「貫く」ってどういうこと? というところを考えないと、飲み屋で盛り上がった翌日、ゲロと一緒に水に流れちゃう、てなことになりがちだと思う。
余談:
「交換不可能な能力に磨きをかけ」て、一方で「交換可能な能力」が不足していると、それは確かに交換不能なオンリーワンになれるが、はたから見ると使いにくい、単なる「異能の人」になりがちである。「外す」という意味での交換も確かに不能だが、「入れる」という意味での交換もできなくなってしまうわけだ。変なスキルばっかり身につけても有利な転職はできない。ほんとに。
特殊なケース(芸術家とかスポーツ選手とか、異能さを活かすマネージャー的存在がいる場合とか)を除けば、人の組織で受け入れられるためにはある程度「交換可能な能力」が必要であり、その上での何か、が勝負になってくる。逆に、既に一定レベルにある人は、交換不可能な能力に磨きをかければいいわけだけども。
- 2007.06.01
- [その他]
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