Web2.0を語る際の論点を整理してみた
Web2.0の話をしろという打診をいただいたりしているのだけど、「Web2.0」の全体をふんわりと捉えて話しても、具体性に欠け、今の時期にしてはあまり実りのある話にならないだろう。だからといって、事例にこだわりすぎるのも視野が狭まりそうで、あまり好みでない。今後生まれる新しい「Web2.0的なもの」について思考を巡らせることこそが有意義だと思うので。両者を横断しつつ、うまいネタを出せたら、と思う。
なので、ここで論点となるものを整理してみる。
■視点が違うと、Web2.0として見えてくるものが異なる
Web2.0を語るときには、大きく技術論とマーケティング論に分けて別々に論じた方が、混乱が少ないだろう。この段階に入るにはリアルユーザー視点からのWeb2.0に関する基本的な知識が前提として必要となる。拙著でもまとめている通り、企画から広報、宣伝まで含めた広義の「マーケティング」に関わるWeb2.0のキモは「スケールフリー・ネットワークであるWebの中で自分を強くするための戦略」。技術論としては、AjaxやPC以外のデバイス、開発を高速化・効率化する技術などの話になる。
参考:Web2.0とは象である――Web2.0のミームを再配置してみた
このうち、技術論については専門外なので置いておく。
■「スケールフリー・ネットワークであるWebの中で自分を強くするための戦略」について
【1】Web2.0的とされるマーケティング戦略(のほとんど)は、Web2.0で初めて生まれたものではない
いわゆるバズマーケティング、一部の権利を開放することによる口コミの促進、ユーザーコミュニティとの協力から新しいプロダクトを生む、といった試みはインターネットが生まれる前からも行われていたし、Web2.0という言葉が流行る以前のWebでも行われていた。例えば以前に「コミュニティ・マーケティング」と呼んだものも、その一種。参考:Webmonkeyレポート : 2005年のコミュニティ・マーケティング のインデックス
ただ「Web2.0」という言葉の登場によって、今まで「なんか物好きがやってること」といった印象の強かったものが「最先端のマーケティング戦略」に変わった、という感はある。
また、情報の流通コスト、スピードが変わったことには大いに着目すべき。
【2】エンパワーメントされた個人と、相対的に弱くなった大組織
「エンパワーメント」とは村井純氏が使っていた言葉で、なるほど横文字はこう使うと効果的なんだなと深く関心してしまったのだけど、そういうこと。むかし雑誌の編集部にいた頃、同僚が編集後記でアホな失言をして(ネタとして笑えるものだが、いささか下品であった)、読者から往復葉書で抗議が届いたことがあった。なんで往復葉書なのか? という謎が印象的で、しばらく編集部では「そんなこと書いたら往復葉書が来るぞ」が合言葉だったのだが、今なら間違いなく「2chで祭りになるぞ」もしくは「ブログ炎上するぞ」が合言葉だろう。
【3】ネットワークの中での「ギブ&テイク」の発想
スケールフリー・ネットワークの中でリンクを集めるためには「興味を持たれる」ということがひとつ重要。さらに「有用と判断される」になればいうことなし。そのための戦術としてはいろいろ考えられるが、「語った人をヒーローにする」というのが一手。ステキかつ使いやすいAPIを無料公開するなど「バカにいい交換条件を提示する」考え方もある。「関係者をヒーローにする」、「バカにいい条件を出す」については「エスキモーに氷を売る」というマーケティング本が面白かった。
【4】言葉を絞る広報・宣伝→言葉を尽くす広報・宣伝 への変化
Webの使われ方は、メディアからコミュニケーション装置へと変わりつつある。その中での広報・宣伝も、絞り込んだコピーでのメディア型一発勝負でなく、様々な切り口から語り(こちらからパスを投げ)、あちこちの文脈を繋いでいく(相手からのパスを投げ返したり回したりする)コミュニケーション型へと移るのは必然。そのツールとしての代表がブログであり、「ブログマーケティング」とはつまり、コミュニケーション型Webマーケティング。
「言葉を尽くす」マーケティングの一例としては、mixiのピンキーモンキーが毎日日記を書いていて、そこに山ほどコメントがついている例も挙げられる。
参考:mixiの笠原社長が賢過ぎるのでFPNの人には本当のことが判らなかったようだ。(好むと好まざるとにかかわらず)
言葉を尽くしコミュニケーションをするには、自社プロダクトが心から好きな人を選ぶべき。心から好きな人が、いちばん言葉を尽くせるからだ。その人が言うのなら、ネガティブなこともまた是とするのが良いと思う。100%完璧なものなどないのだし、欠点を魅力に変えることだって可能だ。下手に真実でないことを言うと、たいていバレる。広報の人選、広報チームの編成、広報スタンスが根本的な部分から変わるのだろう。
【5】集合知やロングテールへの、上からのアプローチと下からのアプローチ
上=Google的、下=小コミュニティ的、と言い換えられる。上=Google的アプローチは「お前たちが好き勝手に作ったものを俺が整理してやる(基本はカオスな情報。そこに一定の整理・編集をかけて提示します)」というスタンス。その意味では、はてなやmixiもどちらかといえばこちら側。ロングテールを生む箱として「はてなダイアリー/ブックマーク」、「mixi」など自社サービスを用意している両社に対し、Googleの箱は「Web全体」であり、さらにその外(書籍やら映像やら)も狙っている、というのが違う。
下=小コミュニティ的としたのは、モデレーターを置いてコミュニティ全体を動かし、何らかの共通意識を持った共同体とか、プロダクトのファンクラブ的なものにしていこうというもの。前者に比べてコストパフォーマンスが悪いせいか、あまり派手な成功例は聞かない。が、じんわりと確実に効果が出るだろうし、リアルビジネスを行う会社では、こちらを指向するのが普通だろう。
一例としては「ターゲットを限定した異色のブログサービスが目指すもの - 2005年のコミュニティ・マーケティング(4) : Hotwired」で取り上げた三越コミュニティサロンがある。株式会社ハー・ストーリーは、こういった事業を得意としていることで有名。
関連:はてなやmixiから妄想する、コミュニティを統治する新しい方法
【6】コミュニティビジネスを「PV上げて広告で収入」としか捉えないなら「回り車」と同じ
コンテンツにユーザーを集めて広告を見せる、というのはメディアの典型的なビジネスモデルだが、コミュニティサービスでこれと同じビジネスモデルを考えると、コミュニケーションをとにかく加速すれば儲かる、ということになる。それでは、まるでハムスターの飼育箱に入れる回り車のようだ。その中で活動するユーザーは、ハムスター程度の扱いしかされないので不幸である。上記したコミュニティ・マーケティング事例からは、いくつかの他のビジネスモデルのヒントが読み取れるはず。
関連:久しぶりのmixi新機能がニュース+横幅増加とは
関連:mixi=ハムスターの回り車説
【7】総ネタ転がし社会
人々が昔から季節の挨拶を贈りあってきたように、コミュニティにはコミュニティを維持することを目的とした、一定手順でのコミュニケーションを必要とする(まるで定期的に通信するサーバー同士がpingを飛ばして互いの無事を確認するように)。Webコミュニティでの具体的手段は「ネタの投下」と「反応」の応酬だ。やりとりから何かが生まれる必要はなく、ただただ脊髄反射で面白がれるネタを投下し、それにワンポイントでも反応することで、互いの関係を確かめ合おうとする、ことが多い。mixiでいえば「日記」と「コメント」がコミュニケーションの基本。「○○バトン」の類がユーザーの間を回り続けるのは、それが格好の「転がしやすいネタ」であるからだ。そして、RSSなどWeb2.0的情報流通ソリューションがこうしたコミュニケーションを加速させる。上記したmixiのピンキーモンキー日記(日記が更新されたらモンキーのマイミクはすぐ知ることができる)も一種のソレ。
いかに「転がしやすいネタ」を投げるか、をバズマーケティング手法のひとつとして研究すると面白いかもしれないが、切ないことになるかもしれない。
関連:コメントが長くなったのでトラバで(総ネタ転がし社会について)
【8】企業サイトにプラスするWeb2.0的要素(1)コミュニティ要素
リアルビジネス(Web以外の場で収益を得るビジネス全般)を行う企業が考えるべきは、ファンをどのように育て、集め、自社プロダクトのことについて考えさせ、語らせるか、ということになる。自社プロダクトについてWeb上で語られることが増えれば、それらがネットワークを形成し、Web上で語られまくっている状態=露出増になる。語りやすいテンプレート(物語、事例、キーワード、フリー画像など)を用意してやることが、語りたい人を後押しできるだろう。
「ファンを集める」ことについては、次の3パターンが考えられるだろう
・コミュニティを作る(コミュニティサイト立ち上げ)
・既にあるコミュニティに入り込む(mixi内プロモとか)
・Web全体をコミュニティとみなし、そこに接続する(ブログプロモーションとか)
ここで、まずは一旦思考を(2)、(3)に戻さなければならない。
【9】企業サイトにプラスするWeb2.0的要素(2)新しい情報流通システムへの対応
RSSをフィードするブログツールベースにしてブログ検索に新着記事が載るようにする
主要ソーシャルブックマークへ繋げやすいボタンを作る
トラックバックを受け付ける
アフィリエイトをやる
自社コアデータを利用できるようAPIを提供する
自社コアデータを有力なAPIに接続する(マッシュアップ)
PC以外の端末にも対応する
など。
あまりWeb2.0の文脈で語られることはないが、検索CMも最近ぽいトピック。
関連:「地底人は誰?」検索CMから考えるSEM
【10】で、Web2.0って儲かるの?
実は、誰も「儲かる」とは言っていない。だが、Web2.0的なものを取り入れていかないと絶望的に勝てなくなってしまう業界はあるだろうし、「ファンを増やす手段」としてのWeb2.0的マーケティング戦略を、従来のマーケティング戦略に加える、ということは自然に考えられるのではないか。大雑把にいってWebを使ったビジネスの主流は「広く展開して(薄く)儲ける」ことにシフトしていく。スケールフリー・ネットワークに「優先的選択」の法則が働くことを考えれば、ライバルに先んじて「広く」展開することが、自社を相当に優位な立場にすることは間違いないだろう。
関連:楽天の問題は、サービスの値頃感を感じさせられていない点にあると思う(スペックやレビュー等の文字情報だけで売れる商品と、ビジュアルによって売れる商品について)
後日思いついたら追加します。
- 2006.07.11
- [Web2.0(ウェブ2.0)]











